最終更新日: 2025/1/13
「退職金スキームを使った節税の仕組みを知りたい」
「退職金スキームのメリットや、どのくらい節税効果があるのか知りたい」
このようにお考えではありませんか?
本記事では、株式譲渡における退職金スキームの仕組みを解説するとともに、売り手企業・買い手企業それぞれのメリットや退職金スキームの計算例を紹介します。
あわせて、株式譲渡・事業譲渡時の退職金についても解説しているので、ぜひ参考にしてください。
なお、シェアモルM&Aは、
の4点で、他社様から選ばれております。
無料相談を実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
事業譲渡・株式譲渡に伴い退職者が出た場合は退職金が支払われますが、退職金の取り扱いは譲渡の手法や、対象が従業員か社長・役員かによって異なります。
そこで、事業譲渡・株式譲渡それぞれのケースに分けて、退職金の取り扱いを説明します。
まずは事業譲渡における退職金の取り扱いについて、「従業員の場合」と「社長・役員の場合」の2つに分けて解説します。
事業譲渡が行われた場合、譲渡の対象となった事業部門で働いていた従業員は、買収先へ転籍します。
そのため対象の従業員はもともと在籍していた会社を辞めて、再度、買い手の企業と雇用契約を結び直すことになります。
事業譲渡における退職金の対応は、おもに以下の2つです。
譲渡前に一度退職金を清算するケースもあれば、買い手企業が譲渡前の期間も含めて退職金を引き継ぎ、従業員が退職するときに退職金を支払うケースもあります。
事業譲渡が行われた場合、一般的に社長・役員は買い手側に移動せずに、売り手側の企業に残り経営を続けます。
そのため、事業譲渡に伴い役員退職金が支払われるケースはあまりありませんが、事業譲渡のタイミングで退職する役員がいる場合は株主総会の決議に従って役員退職金が支払われます。
続いて、株式譲渡における退職金の取り扱いについて「従業員の場合」と「社長・役員の場合」の2つに分けて解説します。
株式譲渡では、経営権が買い手企業に移動するものの、会社自体はそのまま存続します。
従業員との雇用契約も買い手側の企業にそのまま引き継がれるため、譲渡後も引き続き同じ労働条件で働くことが可能であり、転籍や退職はしません。
退職金についても、基本的には支給内容を含めて、売り手企業の制度を買い手企業側が引き継ぐことになります。
将来的に従業員が会社を退職する時には、退職金制度に基づいて退職金が支給されます。
株式譲渡にともない社長・役員が退職する場合には、売り手企業は株主総会の決議を経て役員退職金を支払います。
中小企業においては代表取締役が大株主であることが多いため、株式の売却で得られる対価と役員退職金を組み合わせて受け取る「退職金スキーム」を使うことで、節税効果を得られる可能性があります。
退職金スキームとは、株式譲渡における株式譲渡対価の一部を役員退職金として受け取る方法です。
株式譲渡対価の一部を役員への退職金として受け取ることで、退職金所得および譲渡所得の税率差により、支払う税金を減らす効果が期待できます。
退職金スキームには、売り手企業・買い手企業の両方にメリットがあります。
退職金スキームを使う売り手企業のメリットは「節税により譲渡時の手取り額を最大化できること」です。
退職金スキームを使い株式譲渡対価の一部を役員退職金として受け取る場合、退職する役員兼株主は譲渡所得と退職金所得それぞれにかかる税金を納めます。
このとき、譲渡所得に対しては、譲渡所得の金額に関わらず一定の税率(20.315%)で課税されます。
一方で退職金の負担税率は、所得税(累進課税であり所得金額により税率が変わる)と復興特別所得税2.1%、住民税率10%の3つを合わせた税率です。
退職金にかかる所得税は、退職所得控除や2分の1計算などにより税負担が軽くなるよう配慮されており、退職者の状況や退職金の金額によっては株式の譲渡所得税よりも税率が低くなる可能性もあります。
このように、退職金スキームでは譲渡所得と退職金所得の税率の差を利用することで節税を図り、手取り金額を最大化します。
株式譲渡において退職する役員兼株主が退職金を受け取る場合、退職金は売り手企業から支出されるため、役員退職金の分だけ売り手企業の譲渡対価が下がります。
つまり、株式譲渡対価の一部を役員への退職金として支払うことで、買い手企業が支払う資金も抑制できるということです。
他には、退職金の損金算入も買い手側のメリットのひとつと言えます。
株式の取得資金は損金算入できませんが、退職金は損金算入が可能なためです。
株式譲渡対価の一部を退職金とすることで退職金の分を損金算入できるようになり、退職金が発生した年度の課税所得を軽減できます。
退職金スキームにおいては、「株式譲渡所得課税」と「退職所得課税」の税率差が節税の鍵となります。
そこで、株式譲渡所得と退職所得の計算方法を解説します。
株式譲渡において売り手が個人株主の場合には、譲渡益に対して20.315%の税率で税金が課されます。
株式譲渡所得課税20.315%の内訳は以下のとおりです。
課税の対象となるのは、株式の譲渡価格から株式の取得費と委託手数料などの必要経費を差し引いた「譲渡所得」です。
譲渡所得の計算式は、以下のとおりです。
譲渡所得 = 株式の売却価格 - 必要経費(株式の取得費 + 委託手数料等)
株式譲渡所得税は累進課税ではないため、譲渡所得の金額に関わらず同じ税率で課税されます。
退職金にも所得税・住民税・復興特別所得税が課されますが、退職所得控除が設けられている、他の所得と分離して課税されるなど税負担の軽減措置が施されています。
課税の対象となる「退職所得」の計算方法は、以下のとおりです。
■退職所得の計算方法
退職所得 =(収入金額※ - 退職所得控除額)× 1/2
※源泉徴収される前の金額
なお、役員としての勤務期間が5年以下の場合(「特定役員退職手当等」に該当する場合)には上記の1/2計算は適用されません。
退職所得の計算に必要な「退職所得控除額」は、以下のように算出します。
■退職所得控除額の計算方法
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円 × 勤続年数(最低80万円) |
20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年) |
参考:国税庁
退職所得は累進課税であり、課税所得の金額に応じて以下表のように7段階に税率と控除額が変わります。
課税退職所得の金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
参考:国税庁
退職金にかかる所得税は、退職所得に応じた税率と控除額を用いて以下のように計算されます。
退職所得税 =( 課税退職所得 × 税率 - 控除額)
さらに、退職所得には上記の所得税と合わせて、復興特別所得税2.1%と住民税率10%がかかります。
ここでは、退職金スキームを活用する場合としない場合について、以下の条件を仮定してかかる税金を試算します。
【前提条件】
退職金スキームを活用しない場合には、株式譲渡対価に以下の税金がかかります。
【条件】
■株式譲渡対価にかかる税金
譲渡所得 = 300,000,000円 -(10,000,000円 + 15,000,000円)= 275,000,000円
株式譲渡所得にかかる税金 = 275,000,000円 × 20.315% = 55,866,250円
以上のとおり、退職金スキームを活用しない場合にかかる税金は55,866,250円となります。
続いて、退職金スキームを活用する場合の税金を計算します。
【条件】
■株式譲渡対価にかかる税金
譲渡所得 = 270,000,000円 -(10,000,000円 + 15,000,000円)= 245,000,000円
株式譲渡所得にかかる税金 = 245,000,000円 × 20.315% = 49,771,750円
■退職金にかかる税金
退職所得控除額 = 700,000円 ×(30年 - 20年)+ 8,000,000円 = 15,000,000円
退職所得金額 =(30,000,000円 - 15,000,000円)× 1/2 = 7,500,000円
所得税 =(7,500,000円 × 33% - 1,536,000円)× 102.1% = 958,719円
住民税 = 7,500,000円 × 10% = 750,000円
所得税+住民税 = 958,719円 + 750,000円 = 1,708,719円
■税金合計 = 49,771,750円 + 1,708,719円 = 51,480,469円
以上のとおり、退職金スキームを活用したケースにおける税金は 51,480,469円となり、退職金スキームを活用しない場合と比較して400万円程度の節税効果がみられます。
退職金にかかる税金は退職金の金額によって変化するため、金額によっては以下のように節税効果が発揮できないケースもあります。
【条件】
■株式譲渡対価にかかる税金
譲渡所得 = 180,000,000円 -(10,000,000円 + 15,000,000円)=155,000,000円
株式譲渡所得にかかる税金 = 155,000,000円 × 20.315% = 31,488,250円
■退職金にかかる税金
退職所得控除額 = 700,000円 ×(30年 - 20年)+ 8,000,000円 = 15,000,000円
退職所得金額 =(120,000,000円 - 15,000,000円)× 1/2 = 52,500,000円
所得税 =(52,500,000円 × 45% - 4,796,000円)× 102.1% = 19,224,409円
住民税 = 52,500,000円 × 10% = 5,250,000円
所得税+住民税 = 19,224,409円 + 5,250,000円 = 24,474,409円
■税金合計 = 31,488,250円 + 24,474,409円 = 55,962,659円
以上のとおり退職金の金額によっては、退職金スキームを使っても節税効果は得られません。
ただし、実際の税金計算はより複雑なため、具体的な金額については専門家へ相談しましょう。
株式譲渡・事業譲渡において退職金を扱う際のポイントは以下の4点です。
それぞれ説明します。
株式譲渡・事業譲渡において退職金を扱う際のポイントの1つ目は、役員退職金は適正な金額を算出することです。
退職金は損金算入が可能ですが、適正な金額を超える部分に関しては損金として算入できず、税負担がかかる恐れもあります。
そのため、役員退職金を設定する際は、損金算入できる適正なラインの判断が必要です。
損金算入が可能なラインの算出方法としては、一般的に以下の「功績倍率方式」が使われます。
■功績倍率方式の計算式
役員退職金の金額 = 退職時の報酬月額 × 役員勤続年数 × 功績倍率
功績倍率は任意で決められますが、規模が類似した事業や同種事業の役員退職金の状況などによって適正かどうか判断されるため、詳しくは専門家に相談しましょう。
株式譲渡・事業譲渡において退職金を扱う際のポイントの2つ目は、資金繰りを考慮して役員退職金の金額を設定することです。
役員の退職金は高額であり、支払う際には売り手企業からまとまった資金が流出することになります。
そのため、退職金の積立が不十分な状況や資金繰りが悪い状況で多額の退職金を支払ってしまうと、売り手企業のキャッシュフローが悪化する恐れもあります。
譲渡後の経営に影響を及ぼさないよう、役員退職金の金額を決める際には資金繰りを考慮して慎重に検討しましょう。
株式譲渡・事業譲渡において退職金を扱う際のポイントの3つ目は、役員退職金を支給できない場合もあることです。
例えば、以下のようなケースでは役員退職金を支給できない可能性もあります。
役員を退任すれば必ず退職金が支払われるとは限らず、退職金と認められなければ節税効果が得られない点に留意しましょう。
株式譲渡・事業譲渡において退職金を扱う際のポイントの4つ目は、譲渡後は退職金の制度を統合することです。
売り手企業はもともと、買い手企業とは異なる退職金制度を採用しています。
しかし譲渡後、同じ企業として事業を行う中で複数の制度があると手続きが複雑になってしまいます。
譲渡後はスムーズな運営のため、退職金制度を含めた各制度を統合することが望ましいでしょう。
今回は、株式譲渡における退職金スキームの仕組みを解説するとともに、売り手・買い手それぞれのメリットや退職金スキームの計算例を解説しました。
株式譲渡において退職金スキームを活用すると、売り手側・買い手側の両方にメリットがあります。
譲渡企業の状況によって節税効果が異なるため、詳細は専門家に相談するのがおすすめです。
なお、弊社のシェアモルM&Aは、
の4点で、他社様から選ばれております。
また、事業承継税制や事業承継・引継ぎ補助金(M&A補助金)について詳しく知りたい方は下記のコラムをご参考ください。
・事業承継税制とは?制度の内容や要件、メリットから注意点まで解説!
・事業承継・引継ぎ補助金(M&A補助金)の概要と申請方法解説
シェアモルM&Aでは無料相談を実施しておりますので、こちらよりお気軽にお問い合わせください。
最終更新日: 2025/1/13
ミーティング時に貴社とシナジーのあるクライアントの概要をお伝えいたします。
無料で事業価値の算定も可能でございますので、まずはお気軽にご相談いただけましたら幸いです。
齋藤 康輔シェアモル株式会社 代表取締役
東京大学教養学部基礎科学科在学中に、半導体(シリコン)のシミュレーションを専攻する傍ら、人材会社にてインターン。
インターン中に人材会社向け業務システムを開発し、 大学卒業後の1年間、上記人材会社にて勤務後、 共同出資で2007年3月に上記システム「マッチングッド」を販売する会社、 マッチングッド株式会社を設立。
12年の経営の後、2019年1月に東証プライム上場企業の株式会社じげんに株式譲渡。
2019年9月、売却資金を元手に、シェアモル株式会社を設立。
自身のM&Aの経験から、買い主と売り主の間での情報の非対称性や、 M&A仲介会社が出している付加価値に疑問を感じ、 自身が思わず依頼したくなるような、 付加価値の高いM&A仲介サービスを提供したいと強く思い、 IT技術をフル活用したM&A仲介事業「シェアモルM&A」をスタート。
現在はシェアモルM&Aと、SEOに強い文章をAIが作成する「トランスコープ」を展開中。